日本の商品をフランスで販売するとき、多くの企業が最初に直面するのがパッケージの問題です。規制やラベル表示の要件は、公的機関に相談すれば答えが得られます。しかし「このデザインでフランスの棚に置いたとき、どう見えるか」については、誰も答えを持っていません。ここから先は、企業自身が判断しなければならない領域です。
日本のパッケージをそのまま持ち込むと何が起きるか
よくあるのは、次の2つの失敗です。
ひとつは、日本語をそのままフランス語に置き換えただけのパッケージ。情報としては正しくても、なぜこの商品が特別なのかが伝わりません。日本市場では説明不要だった前提が、現地では共有されていないためです。
もうひとつは、逆に日本らしさを過剰に盛り込んでしまうケース。桜、富士山、筆文字、赤。すべてを載せると、フランスの消費者には「観光地の土産物」に見えます。品質で選ばれたい商品が、記号の集合体として消費されてしまう。
現地では、日本人のみが日本を売りにして商売をしているわけではありません。日本人気に便乗して「日本っぽいデザインにすれば売れる。」と思って商売をしている人も多い。そういった人が好んで使用するのがこの「富士などの分かりやすい日本モチーフ」でもあるので注意が必要です。
どちらも、日本側の感覚では気づきにくい失敗です。
何を残し、何を変えるか
フランス市場で日本の商品が評価されるとき、鍵になる言葉のひとつが「ZEN」です。
これは単なる和風の装飾を指しているのではありません。余白を大切にし、必要なものだけを残す。無駄のない静かな美しさ。フランスで「日本らしさ」として受け止められているのは、この方向の美意識です。
つまり、足すのではなく引く。日本の記号を削ぎ落としながら、それでも日本だと分かる形を探す。この判断が、フランス向けパッケージ設計の中心になります。
実例:和紙と水引をどう翻案するか
先日制作したパッケージデザインの例で説明します。

白い和紙の質感を生かし、紅白の水引をひとつだけあしらった箱です。日本の贈答文化を象徴する要素を残しながら、装飾は最小限に抑えています。
和紙を選んだのは、質感そのものが説明なしで伝わるためです。印刷では出せない繊維の表情が、手に取ったときに品質の信号として機能します。水引を残したのは、これが「結ぶ」という行為を可視化した意匠であり、贈り物という文脈をひと目で伝えるからです。
実際、フランス人にデザイン前に「どのようなデザインを日本らしいと思うか」についてリサーチしたところ、この水引は和を感じるという意見がありました。
一方で、余計な色や柄は加えていません。白と赤だけに絞ることで、日本の贈答文化と、フランスで評価されるZENの美意識を重ねています。
現地でしか分からない判断
ここまでは、日本のデザイナーでも設計できる範囲かもしれません。
しかし、この箱にはもうひとつ判断が入っています。
フランスでは、贈り物に偶数は避けられます。

花束を贈るときも本数は奇数にする。これは現地では常識に属する感覚で、意識せずに守られている慣習です。そのため水引の花びらの数も、奇数になるよう設計しています。
日本の水引は結び方の意味こそ重視されますが、花弁の数が贈答の可否を左右することはありません。つまりこれは、日本の設計基準には存在しない判断です。
こうした違いは、規制の資料にも市場統計にも載っていません。現地で暮らし、現地の人が何気なく守っている感覚を知っていて初めて、設計に反映できます。
ただ、これも全てに適用されるのかというと、その都度判断すべき点であり、そこに現地の視点は欠かせません。
判断は商品ごとに変わる


ここで挙げた判断は、日本の商品がフランスで販売されることを前提としたものです。
同じ和紙と水引でも、食品と工芸品では最適解が変わります。日本食材店なのか、百貨店の棚なのか、パリのセレクトショップなのかでも変わる。もちろん、ギフト需要を狙うのか日常使いを狙うのかでも変わります。
「フランス向けにはこうすればいい」という汎用の正解はありません。商品の背景、想定する売り場、狙う顧客層を踏まえて、そのつど何を残し何を変えるかを判断していく作業になります。
日本の商品には、伝えるだけの中身があります。問題は、その中身が現地の文脈で読み取れる形になっているかどうかです。
Fleurir Designでは、フランス市場向けのパッケージ設計、商品名の再設計、ブランドストーリーの企画、販路提案や市場調査を行っています。パリ在住15年、日仏25年以上の実務経験をもとに、現地で伝わる形への「編集」をご提案します。
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