デザイン事務所に入社した20代はじめの頃、夏の広告を打つ時に「シズル感を出せ」と言われた。
デザイン業界では知ってて当然のワード「シズル感」。
この時の私は知らず、「バカとハサミは使い様」をモットーにしている上司は、無知な私に怒らず教えてくれた。
「田中、シズル感というのはな、氷に入ったコップについた水滴のような水みずしさや、焼肉がな、ジュージュー言って煙が立って肉の脂がじゅわわーと出てきて匂い立つような感じをいうんや。」・・・
そう、シズル感というのはよく電通さんなどの大手広告代理店さんとの打ち合わせの時に好んで使われるワードです。
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例1「今回のチラシ、シズル感を全面に出したビジュアル展開で行くので、そういうデザイン出して。」
例2「あ、カメラマンさん、ここシズル感出して撮影してください。」
コップに霧吹きでシューシュー霧を吹きかけ水滴を作るカメラマン
例3「うーん、なんというかさ、このビジュアルいいんだけど、もうちょっとシズル感出せない?」
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シズル感とは、すなわち「五感に訴えかけるビジュアル」。
値段や理由ではなく、五感で「うぉー!今これ飲みたい!食べたい!触りたい!」という気持ちにさせるビジュアルという事です。
この言葉は営業講師のエルマー・ホイル氏が考案した言葉らしいですが、
そんな偉大なエルマーさんの伝記を読まなくても、知らなくてもみんな普通に使っています。
先日、在仏10年にしてたまたま食べたこのパン。
近所のパン屋で、本当に美味しかった。
外は少しパリパリで中はしっとり。本当に餅のようなモチモチ食感。
かなり大きいのですが1ユーロ20というお手頃な価格で、まだ買った時にあったかくて、
思わず嬉しくなって写真に撮りました。
では、このパンをベースにシズル感を出してみます。
これが、スマホで撮影したままの写真。
加工してシズル感を出します。
パンのいい香りがしてきそうです。
上の写真よりもフワフワで美味しそうです。
なんやったらいい香りもしそうです。
本来、カメラマンさんがいい仕事をしてくれたら、デザイナーはそれほど大変ではないのですが、
すべての写真素材がカメラマンさんが撮影してくれるわけでは全然ないので、
デザイナーは技術をもってシズル感を出す事に挑戦します。
この技術は、お歳暮カタログの写真達、通販カタログの写真、レストランのメニューにもよく使われます。
今は、デジタルの時代なのでフィルムなどを添付して印刷入稿する事はないのかもしれませんが
昔はデザイナーはカンプ(仮スキャン)で色を調整して、印刷屋さんに支持を出したり、
印刷屋さんから高解像度スキャンされたデータをもらってから加工して印刷データを作成していました。
昔は、印刷会社とデザイナーはお互いの技術を持ち合って、一つの広告物を作成するのにタッグを組んでいましたが
デジタルの時代になってからは、そういう技術と心意気のある印刷会社さんは少なくなり
デザイナーにかかる負担が大きくなってきています。
印刷屋さんが価格競争の中、どんどん少なくなっていくように、デザイナーも大変な時代です。
なので、何が言いたいかといえば、
デザイナーは「渡された素材、購入した素材をそのまんま使用するようなつまらん仕事をしてはいけない。」という事です。
渡された写真すら気づいていなかった魅力を出せる技術が重要です。
しかし、簡単なフィルターはダメなんです。
一目で加工とわかるものは、商品カタログなどは絶対にNGです。
素材そのもの感が求められます。
加工、トリミングによる視線&視覚誘導するための知識と技術はデザイナーの必須スキルです。