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息子がフランスの学校でデレゲ(クラス委員長)に立候補すると言い出した。

ある日、息子は私に言った。

 

「ママ、僕デレゲに立候補するよ。」

 

デレゲとはフランス語でdélégué(代表者・代表)のことで、息子の言うデレゲは学級委員。

ちなみに、娘はパリ、息子はヴェルサイユの公立校に通っている。

 

私の子供達は、どの担任の先生にも「ものすごく日本人らしく、とても丁寧で、礼儀正しく、大人しい。」と言われてきた。

実際、フランスの学校では何か悪さをするとすぐに先生に呼び出されたり、ノートに書かれたりするが、我が子達はそんな事一度もない。それだけでもありがたい子供達だ。

 

しかし、フランスでは大人しいのは時としてデメリットにもなり得るようで、娘の成績表に積極性に乏しいと書かれた事もある。

発言してなんぼの国なので、沈黙はやる気がないとみなされるようだ。 

 

息子はというと、クラス担任でもあり私の友人でもあるソフィーに聞くと「大人しくて、可愛くて、丁寧で、勉強もしっかりやって、しかも授業中とても積極的で完璧!」との事。

ソフィーはかつて娘の担任でもあったが、娘の時には聞いた事もないほどの勉強に関する賞賛のワードが並んだ。

 

娘は、明るく誰とでも仲良くなるタイプで、長所は間違いなく「ポジティブ」なところ。

失敗を恐れず、常にポジティブなので、柔道でも厳しい先生からもとても気に入られている。

何にでも意欲的で興味を持つという子供らしい可愛さがある。が、長所とは短所。

何にでも興味があるぶん集中力がないうえに、根拠もなくポジティブなので悪い点数をとってもなんとかなると思っているふしがあるので、私がしっかりと見ていないとすぐに気を抜いてテストで悪い点を取る。

 

そんな娘もヴェルサイユに引っ越ししたての時は、すぐに友人が出来ずに、娘を学校に迎えに行ったら「ママ、私、今日一人だったの。友達も派閥のような感じがあって、それに巻き込まれるのがいやで、校庭の端っこで南無阿弥陀仏と唱えてたら、一人じゃないって気がして、花ちゃん(今は亡き愛犬)がやってきたような気がしたの。」と言い出した時があり、それを聞いた時は本気で日本に帰ろうかと思ったこともある。

それから間もなく派閥争いはなくなり、娘はその派閥の子両方とも仲良くなり学校がたいそう楽しそうになった。

 

一方、息子の性格は、めちゃくちゃ面白いがマニアック。息子はとにかく笑いのセンスがある。

私が面白い人が好きで、小さい頃から吉本新喜劇を見せていたからだろうか。

が、マニアックなので多くの人にそれを披露したりしないので、クラスの中心的存在になる雰囲気はない。

が、頭が良く、飲み込みが早い。あと、勉強ではさほど手がかからないけど、興味の対象は広くないタイプ。でも、好きな事はとことんやる。研究者タイプだ。

コレクターで、そのコレクションは「貝・チョコの包装紙・ポケモンカード・スーパーでもらえるシール・砂時計」と多岐にわたっている。

 

そんな息子のクラス委員立候補。

 

学校や地区にもよるのかもしれないが、フランスでは学級委員はけっこう人気があるように思う。

子供達の話を聞いていると、みんなの憧れ的な存在のような気がする。

「あの子、クラスデレゲだよ。そりゃ女子にモテるよ。」という話も小耳にはさんだりする。

候補者がいて、ちゃんと選挙もあるし演説もある。

 

現に、娘も小学校時代に、デレゲに立候補して、選挙のための演説文を作り、私の親友が家にきていた時に「聞いて!聞いて!」と読み上げはじめた事がある。

 

その意欲的な姿は、どこがで私の親友のスイッチを押したらしく

「素晴らしい!私、応援するから頑張って!もっと、区切りをつけて大きな声で、ゆっくりともう一回読んでみて!」と、いきなり目の前で、先ほど私とお茶を飲んでいた親友と娘が特訓を始めた時には驚いた。

 

「いいよー!もっとこう読んでみて!!」

「はいぃっ!」

お、おぉ・・・なんじゃこりゃ・・・のまさかの展開だった。

 

そんな娘ですら、クラス委員には選ばれず、かろうじてデレゲ不在の時にデレゲをするというピンチヒッター的な役割になったのに、マニアックな我が息子が選ばれるのは難しいのではないかと私は思った。

 

が、しかし、何かをやりたいという気持ちがあるのは素晴らしく、

習い事を選ぶ時も、あれやこれやとやりたい娘、かろうじて柔道はしたいという息子の「僕、デレげになったる!」という発言は画期的だった。

 

思い返せば、前に住んでいたブジバルでも息子はデレゲになった事があるが、その時の私はすっかり忘れていた。

 

 

いつもお世話になっているマダムに「息子は、自分で組み立て勉強できるので、なりたいといえば何にでもなれる能力があるのに、息子はとにかくママが好きすぎて、他を見ようとしないふしがある。」と言われた事がある。

確かに、息子が過去になりたいといった職業は「弁護士かデザイナー」。

弁護士になりたい動機は、ママだけの弁護士になってママを助けたり守ったりしたい。(←クライアントが私だけなので儲かりそうにない。)

 

デザイナーは、絵が上手いとママによく言われるし、ママの仕事だから。という動機らしい。

 

そんな息子が、デレゲに興味があって立候補するとは!こりゃすごい。そんな子やったんや!と私は親として嬉しかった。

 

 

男女一人づつのクラスデレゲを決めるために、候補者は10人もいて、2度の選挙によって選ばれるらしい。

 

そして、いよいよ選挙日。

 

一番はじめに候補者が手紙を作成し、出来上がった順に手を上げて順番に読み上げる。

 

 

女子の中で選ばれた女の子は、演説の前に「私に一票入れてね!(Votez pour moi!)」と書いた紙をみんなに見せながら登壇して立派に演説をし、そして見事選ばれたらしい。

 

お、おぉ。。。選ばれるべくして選ばれた感満載やな。

息子は最後まで手を上げなかったらしいが、「よし、とりあえず前に出て言いたい事を言え。」と先生に言われたらしい。

 

「で、息子はどうだったん?」と聞くと、

「僕ね、言いたい事いっぱいあったんだけど、前に出て、僕はたくさん。。。たくさん。。。たくさん。。。」と言ってるうちに、片方の目に涙がじわって出てきたの。」

 

 

か、かわいい。もういい、私が決める、君が私だけのデレげや!と言いたい気持ちを抑えて

「みんなはどんな感じだった?」と聞いた。

「みんな、じ〜って見てた。そしたら、先生が、いっぱいクラスのみんなの為に役に立ちたい?と言ってくれて、ものすごい勢いで僕は頷いたの。」

 

「・・・そ、それで選ばれたの?」

「うん、投票箱を開いてみたら、みんないっぱい僕の名前を書いててくれたの。プチデレゲさん(小さいクラス委員長)って呼ばれて、うひょー!ってなったの!今日は今年一番いい日だった!!!」と興奮気味に話す息子。

 

確かに日本人である息子は小さい、なんだったらクラスで一番小さい。

クラスで一部の女子に「可愛い」とか言われてるらしい、しかし息子はいつも「可愛いではなくカッコいいと言われたい。まぁ、そんな子なかなかいないけどね。」と息子。

 

選ばれるべくして選ばれた女子デレゲと、たぶんクラスみんなの優しさで選ばれた息子。

 

この日、迎えに行ったら、走ってきて抱きついてきた。 よほど嬉しかったらしい。

 

「ほんとうは、もっと、デレゲになったらみんなに日本語教えます。とか、みんなが楽しくなるようなクラスにしますとか、言いたかったのに、言えなかったの。」と、今になって私にだけ高い志を伝える息子。

 

その日の帰り道にパン屋に寄り、パンを買っていると「あ!デレゲだ!」と同じクラスの子に言われていた息子。

顔をみたら「えへへ。」という顔でほくほくしていた。

 

よかったな!私も息子を誇らしいと思った。何よりも息子が嬉しそうなのが嬉しかった。

 

 

とはいえ、2度目の外出制限があったりして、世間ではアジア人を攻撃しろだとかいうSNSが出回ったりして、色々と心配もしたりしたけど、こうやって私たちの暮らすヴェルサイユの街の子供の学校やあったかくて平和だ。

 

ヴェルサイユが治安が良いからか、はたまた私たちが周りの人に恵まれているだけなのかは分からないが、日々の生活の中に人の温もりを感じる事がとても多く幸せだと度々感じる。

 

学校の先生や校長先生もそうだし、近所の人もそう。

前に、家の前を歩いていると、前からパトカーがめっちゃゆっくりやってきて私のところに止まったと思ったら、子供が同じ学校に通うポリスをしている知り合いだった

「清美、最近どう?困った事はない?最近見かけなかったね。娘さんはパリの学校楽しんでる?」

「うん元気だよ。いつも気にかけてくれてありがとう。お仕事頑張ってね。良い1日を。」と伝えると

彼は同僚と微笑みながら去っていった。

 

世の中はいろんな人がいるし、しばしば問題が起こりニュースになり日本にいる私の家族や友人を心配させるけれど、いろんな人がいるぶん良い人もいる。

アジア人差別という反面、日本人の息子がクラス委員長に選ばれたり、警察官の暴行があったというニュースの反面、私と子供達だけで暮らす我が家を気にかけてくれるポリスの友人がいて、ありがたいなと思うのです。

 

もちろん12年もフランスで暮らしていると、嫌な思いをする事もあったけれど、山ほどの優しさにも出会う事があり、じゃあ日本で暮らしていると嫌なことはないのか?というとそうでもない。

 

日々のささやかな幸せは、ささやかなぶん忘れやすい。

その時々にある、たぶん明日には忘れてしまいそうな感謝や幸せをこうして書いておくと、いつか読み返せるかもしれない。

 

もし、その時、自分がすごく辛かったりしても、こんな事があったなと思えるなら、子供と暮らしている海外生活も大変だけどいいこともたくさんあったと思えるかもしれないし、今の自分の頑張りが、落ち込んだ自分を癒してくれるかもしれない。

 

Kiyomi TANAKA


パリを拠点に活動するクリエーティブディレクター&デザイナー。

ヴェルサイユで子供2人と暮らしています。

海外での子育ては大変ですが、喜びも多いです。